Special

スペシャルインタビュー
<vol.02>


オリジナルアニメ『Phantom in the Twilight』が、どのようにして出来上がっていったのかをシリーズ構成を担当した丸戸史明氏と矢野俊策氏に本作のプロデューサーである星野万里が直撃取材。
企画の成り立ちから、ここでしか語られないマル秘裏話など『ファントワ』をより深く知れるスペシャルインタビューを3回に渡ってお送りします。

第2回では、世界観やストーリーを主軸にしたインタビュー。
日本だけではなく異なる市場を視野にした物語を作る上で難しかった点などを語ってもらいました。


星野:世界観については、キャラクターにも『日本』というキーワードがまったく出てこないですが、やりにくさや難しさはありましたか?
丸戸:トンとシンヤオの関係性だったり、主人公が中国人ということで、彼らがロンドンに行ったときにどう感じるかといった感覚については、Happy Elements Asia Pacificさんの意見を元に勉強しながら書いていったので、あまりないですね。特にトンとシンヤオがイチャイチャするシーンでは、どこまでくっつけるべきか、どこで線を引くかというあたり、非常に中国文化が入っている部分で、逆に言うと絶対に日本のキャラクター同士の絡みではないんですよ。そういった違う文化を描くことはおもしろかったですし、これからはインターナショナルな作品に手を付けられるという感触もありました。どこの国からのオファーにもお応えできます(笑)。
矢野:舞台が日本でないことには特に違和感がなくて、むしろロンドンと言われたときに、いわゆるファンタジーにできるなと思いました。中国の人だって日本と同じで、ロンドンのことをすごくよく知っている人は少ないわけで、正直に言えば好き勝手できるなと。それよりも中国の人がどのくらいのことを知っているのか、日本でいう『お約束』が、どれくらい通用するのかに関しては、本当に二転三転ありました。吸血鬼の弱点がニンニクであるという知識は、中国ではあまり一般的ではないと言われたときには、目の前が真っ暗になりましたからね。

丸戸:今まで自分たちが使ってきたお約束で、絶対にここはこうなるという部分が通用しないところ、そこをどういう方向性で納得させていくか、そういう意味で引き出しがちょっと広がるようなところがありましたよね。

矢野:あれはおもしろかったですね。

丸戸:私も含めてライター陣は言葉遊びが好きな人をそろえてみたんですが、それ故にみなさん苦戦していました。言葉遊びネタがなかなか通用しないんです。自分たちはそんなつもりもなく使っていたけれども、日本語、日本文化じゃないと通用しない言葉遊びってあるんだなあと。

矢野:ある種、翻訳前提なところがありますから。

丸戸:そこをどうおさえていくか。逆に中国ローカルの面白さをぶち込めるほどの知識はないですから、なるべく汎用的に楽しめるラインはどのへんなのか探っていく作業。今まで自分で武器だと思っていたものの中には、日本でしか通用しないものがあるんだなとわかりました。そういう意味で立ち位置がわかったのはよかったです。

星野:ロンドンが舞台ということになったとき、『トワイライツ』や『ミッドナイトサン』という組織を作ろうと考えたのには、どんな理由があったんでしょう。

矢野:ひとつは、アニメだけでなく、いくつかの作品を同時に走らせることができる世界というオーダーがあったからです。ロンドンだけで始まってロンドンだけで終わる話でもダメですし、主人公たちが世界の“おおもと”に関わる問題を解決してしまう話でもダメ。主人公たちが活躍した結果、アンブラはひとりもいなくなりました、じゃあダメなわけですよ。世界全体を作る際に、最初に人外のキャラクターたちをアンブラと名付けて、彼らについての設定を作って、アンブラがロンドンだけではなく、ワールドワイドにいることになったとき、組織を作らないほうがおかしいとなったんです。彼らがこれまで何をしてきたかと想像したとき、全員バラバラに生きているのも変な話で、共通項があったら集まるのが一般的な人間の生き方で、そういった意味で組織はできるだろう。そこで、主人公たちはカフェにいることになっているので、チームを組んでいるわけですよね。でも、どうやってチームを組んだかという話から始めると少し遅い。トンが留学してくるところを物語のスタートにしたいので、それなら彼らも組織に入れ込もうという流れです。

星野:今回、3つの組織の中で『トワイライツ』にフォーカスを当てた理由は?

丸戸:ほかのふたつは大きすぎるからというのはありますね(笑)。

矢野:ですね。主人公が人間で、ほかのメンバーがアンブラという時点で、組織が人間寄りでもアンブラ寄りでもダメということになる。両者がある程度わかりあう構図が必要になるのは明白なんです。

丸戸:カフェメンバー側でも、描かれるのは人間とアンブラのコミュ二ケーションの話ですからね。

矢野:生命体としてはアンブラの方が圧倒的に強いけれど、アンブラは人間の想いから生まれてきているわけですから、人間がいないと生きていけない。数も少ないですから、人間とのバランスを取って生きていくしかないと考える人たちが体制派になる。世界観全体として、どこを切り取ってもアンブラと人間がどう関わっていくか、どちらが上かとか、どちらと戦うかとか、そういうものも含めて、お話としては、そこが面白いんですよね。だから『トワイライツ』という存在は扱いやすいんです。もちろん、残りふたつの組織は悪役として設計している部分があるのも影響していますが。

星野:おふたりにとってこの作品を作っていく上で面白いと感じる部分はどんなところだったんでしょうか?

丸戸:最初の企画では、人間とコミュニケーションする人外のカフェに依頼人が現れて、毎回それを解決してめでたしめでたし、たまにほろ苦い終わり方も、というような計画だったんです。でもシリーズとして12話ずっとそういう展開というよりも、戦いや対立軸にシフトした部分もあったんですが、実はトンとシンヤオとの関係を前面に出したいという要望から、そうなったところが大きいんです。シンヤオがトンたちと一緒にいて、ひとつずつ事件を解決していくとなると、ふたりの関係はドラマになりにくい。それならふたりは引き離した方がいいのかなと。親友が引き離されれば、自然とふたりの関係が軸になりますし、物語も元の企画よりも壮大な話にならざるを得ない。

矢野:最初、シンヤオはいなかったんですよね。2回目くらいの打ち合わせで、主人公のモチベーションが云々から始まって、やっぱり親友を出したいというような話から出てきた記憶があります。今は12話通してひとつの話というイメージの方が強いですね。

星野:ストーリーを担当している丸戸さんはバトルシーンをメインにしたものをあまり書かれていないと思いますが、難しかった部分はあるんでしょうか。

丸戸:昔は書いていたんですよ。業界的な流行や、求められる方向性があるので、あまり書かなくなっていたというのが実際のところです。本格的なバトル描写が得意というワケでもないんですが、バトルの中でキャラクターたちが感情的に対立して、戦った結果どうなるかというドラマを考えるのは好きなんです。
具体的な戦い方、例えばどんな必殺技を使うとか、そういう部分はあまり得意ではないし興味がない。だから、そのあたりは監督や制作会社さんにお願いして、アニメーションとしての技を見てほしいなと。僕は展開や感情に特化して書きました。

星野:設定面について、バトルはアンブラの特性を使ったものになるんですが、矢野さんとしてそれを考えるのは大変だったんでしょうか。

矢野:技の表現はもちろんアニメーションにお任せするところなんですが、設定についてはアレコレとアイデアを出しています。先に展開が決まっていて、そこにはまるものを考えるというのは初めてのパターンだったんですが、ゼロから生み出すのではなく、例えばヴラットならヴラットのできることはだいたい決まっていて、その中から展開に合わせたものを考えていくので、決して難しいものではなかったかと思います。

丸戸:でもヴラットの中国拳法は、ちょっとひねりがありましたね。
星野:すごくカッコいいシーンですよね。あの構えを吸血鬼が取るのは一見違和感があるんですけど、なぜ彼が中国拳法を使っているか、理由がわかると泣けますし。

丸戸:一番チートなのはトンなんですが、脚本ではだいたい「トンすごいことをやる」「トンみんなを投げ飛ばす」とか書いて、あとは矢野さんよろしくって感じだったので楽でしたね、あとは矢野さんが何とかしてくれる(笑)。

矢野:こちらからいくつか提案すると、監督がその中から選んでくれて。

丸戸:フレキシビリティが最高です。

矢野:お役にたてていればなによりです(笑)。

《次回9月10日更新に続く》

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