第1回は、『Phantom in the Twilight』という企画がどのようにして立ち上がったのか?
そして、ふたりがどうしてこの企画に参加することになったのかを中心に語ってもらいました。
星野:『Phantom in the Twilight』というアニメ企画はどのようにして始まったのでしょうか?またおふたりが関わるきっかけはなんだったのでしょうか?
丸戸:製作会社であるHappy Elements Asia Pacificさんからアニメを作りたいという話をいただいたのが『Phantom in the Twilight』の始まりです。そのターゲットが中国市場の女性も意識したもの、強い女性、好奇心が旺盛で新しいもの好き、友だち想いな人がターゲットであると説明いただいて、そういう女性を主人公に据えましょうということで、トンが生まれています。Happy Elements Asia Pacificさんは、とにかく非常に細かいリサーチをなさっているんです。アニメを見る層の中でもどういったことがキーポイントになるのか、とか。そういう形でターゲットを明確にしたうえで、そのターゲット層向けの企画案を募集されました。
星野:ターゲットとっても明確にしましたね。丸戸さんがおっしゃったような要素に加えて自分の人生を自ら切り開いていきたい、でもその自分が選ぼうとしている道が果たして正しい選択なのか…、と迷っている今どきの女性たちをこのアニメのターゲットにしたいと。最終的に22案くらい企画案がでました。
丸戸:私はその中のひとつ、カフェものを出したんですよ。以前かかわった企画の男性版という安易な企画だったんですが(笑)、最初はバトル要素はまったくなくて、主人公が店長になって、本当にカフェの日常話を展開するというもので。
矢野:私は吸血鬼ものを出しました。結果、妖怪もの、人外ものとして受け止められたといいますか、いろいろまぜた結果そうなったみたいですね。
丸戸:22のアイデアの中には、きっと、ほかにもいろいろよさそうな要素があったと思うんです。私の企画だとカフェという要素だし、矢野さんだと人外という風に、拾い上げた要素がどんどん重なって『Phantom in the Twilight』の原型がで出来あがった。さて、それを誰に作らせるかといったときに、なぜか私たちに声がかかったわけです。どういう理由なのかはよくわからない――きっと声をかけやすい人間だったんじゃないかとは思いますが(笑)。『カフェ』と『人外』という、ふたつの大きな要素を出してきた人間を組ませたという感じでしょうか。私は人外的なファンタジー要素が苦手で、お話にしか興味がありませんと。それなら世界観を作れる人がどうしてもほしいということで、矢野さんに白羽の矢が立ったと。
矢野:設定面を私が担当して、ストーリー面は丸戸さんが、というスタイルは、そこからですね。
星野:丸戸さんと矢野さんが選ばれた理由としては、企画案として物語的には相対するものを出してきていた部分も大きかったと思います。このふたつをミックスしたときにどうなるのかという期待感ですね。実は丸戸さんと矢野さんに入っていただく前の段階では、『トンのような女子主人公』軸でいくか、それとも『チーム男子』軸で進めるか悩んでいたんです。安全パイはチーム男子的なものだろうなと。そのジャンルであれば中国でも日本でもある程度は受けるという確信はあったのですが、それでは私たちの会社があえてアニメを作る意味がないなと。であれば、やっぱりターゲットである女性が共感できるんではないかなと思う強い女子、好奇心旺盛な子を主人公にすることに賭けてみたいと。日本でも中国でもそういう女の子を主人公にした作品は最近見かけないので、だからこそやる価値があるのかなとも思っていましたね。
丸戸:日本の乙女ゲーと違う造形になったのは、日本だけではなく中国のターゲットを重視した判断ですね。しっかりしたコンセプトのもとに、中国の方にもどうアピールしていくかという部分で、Happy Elements Asia Pacificさんにノウハウをいただきつつ、三位一体で話を作っていったんです。
矢野:世界観については、アニメ1本だけではなく、ほかの媒体でも同時に作品を走らせられるものにしてほしいということでした。丸戸さんのことは存じ上げていたので、一緒に作品を作れるというのはおもしろそうだというのと、中国も視野にいれた作品はやったこともありませんので、いろいろ教えていただきながらやれるのはやはり面白そうだなと。
丸戸:新しい市場にチャレンジするという部分は、面白そうだと感じましたね。私の方は「企画が通ればお願いするかもしれません」と言われていたので、人外カフェに決まったと聞いて自分の企画は通らなかったんだなあと思っていたら、「何を言ってるんですか、あなたが書くんですよ」と言われて(笑)。それはともかくとして、女性向け、中国向けという今までやったことがない分野で新しい仕事にチャレンジしてみるという部分には興味を惹かれました。「丸戸さんの女性向け見てみたいなあ」なんて言われて、騙されるもんかと思ったんですけど、結局騙されました(笑)。
星野:これまでおふたりとも、男性向け作品をメインにしてきたわけですが、女性向け作品を書く際に気をつけたこと、難しかったり悩んだことなどあったんでしょうか。
丸戸:キャラクターデザインの左さんも含めて、男性向けをやっていた人ばかりなんですよね。企画の段階にあったチーム男子的な作品だったら、もしかしたらもう少し違和感があったかもしれないですが、逆にヒロインのキャラクターも強く自我を持っている作品なので、違和感が消えていたかもしれません。
矢野:それはありますね。
丸戸:私はもともと男性向けでメインで書いていましたけど、ヒロインでも主人公でも自我が強めで――だから『主人公ウザい』とか言われるんです(笑)。いわゆるお飾り的なキャラクターが受ける市場も土壌もありますし、それがいいこともあるんですが、私の中では苦手な部類なんですね。今回、女性向けではあるけれども、主人公のキャラクターの性格的に違和感がなかったんだと思います。
矢野:私は世界観などの設定部分を担当しているので、女性向け男性向けという区分がそれほど影響がないんです。男性向け作品を多く作ってきましたけれど、その中でも好きになってくださる女性のお客さんも多々おりましたので、そういう意味では、基本方針として笑える泣ける、感動できるストーリーラインがきっちりしていれば、男女関係なくいけるとは思っていました。
丸戸:あとは中国市場ということが大きかったですよね。見てくださる方たちは基本的に私のことを知らないでしょうから、本当の意味で作品を受け止めて評価してもらえればいいと思いますし。
矢野:これまでのバックボーン抜きで評価してもらえるのはありがたいですよね。
丸戸:もちろん、スルーされてしまったら悲しいわけですが(笑)。
矢野:そこはHappy Elements Asia Pacificさんに頑張って広めていただいて。我々がやれるべきことはやったので(笑)。
星野:そこは一生懸命やらせていただいております!(笑)
丸戸:作り手側はお話の中、作品の中にしかフックを作れないですからね。それにはどんなに頑張っても限界があるので、作品に来てくれるまでのフックについては、お任せするしかないんです。
星野:確かにそうですね。今回の作品は日本でも中国でもいろいろな展開をしているんですが、やっぱりオリジナル作品というところで、最初から固定ファンがいるわけではないので…。今後、だんだん盛り上がってくるストーリーに合わせて、ファンのみなさんが楽しめる面白い企画も色々と用意しております!
《次回9月3日更新に続く》